東京メトロ有楽町線の延伸計画(豊洲~住吉)を運行形態・利便性の面から見てみる

地方では鉄道の維持に限界が見えつつあるこの頃ですが、東京近郊ではまだ新線の建設に向けた動きが続いています。東京は人口規模が大きいことと、自動車交通よりも鉄道のほうが便利であることが背景にあります。

その新線計画のなかでも有力なのは東京メトロ有楽町線(8号線)の延伸計画です。有楽町線は和光市駅(埼玉県和光市)から、新木場駅(江東区)を結んでいます。池袋・市ヶ谷・有楽町・豊洲を経由する路線です。

延伸計画は豊洲から分岐して、東陽町を経由して住吉に至る路線計画です(図は江東区ウェブサイトより)。中間駅は2つを新設することが構想されています。江東区がこのようなページを設けているように、区は実現に向けて大きな期待をしています。

もともとは1972年に豊洲と亀有を結ぶ構想から始まりましたが、2004年の東京メトロ発足時に「副都心線を最後に新線整備を行わないこと」を宣言し、計画が一旦はストップ。2009年からは豊洲~住吉に限定して計画が動き直しました。

また、この路線の整備は2018年の豊洲市場の開場にともなう東京都と江東区の約束事項とされています。2018年に東京都による基金「鉄道新線建設等準備基金」の対象に選ばれたことで実現に向けたはずみがつき、この2021年7月にも国の答申で「早期に事業化をはかるべき」とされ、江東区から都への申し入れも行われました。

整備の利点として強調されていること

江東区ウェブサイトによれば、2015年の東京都の「整備について優先的に検討すべき路線」では、整備の利点が示されています。

●周辺の既存路線と結節することで、東京臨海地域から東京区部東部を南北方向につなぐネットワークが強化され、利便性が大きく向上する。
●東武スカイツリーライン沿線の区部北部から埼玉県方面、都営新宿線や東京メトロ東西線沿線の区部東部から千葉県方面に時間短縮便益が大きく広がる。
●東京メトロ東西線の木場駅から門前仲町駅間の混雑率はピーク時199%(平成25年度)であり、地下鉄路線の中で最も高い混雑率となっているが、本路線の整備により東西線の混雑緩和が見込まれる。

豊洲エリアと押上エリアを結ぶことで、その間の移動を円滑にすることを掲げています。また、埼玉県方面と千葉県方面の連絡のバイパス的な性格もあることが主張されています。

実際に豊洲~住吉間は現状では移動に難が生じています。整備の効果は一目瞭然ですね(画像は東京8号線(豊洲~住吉間)延伸パンフレットより)。

運行形態と利便性

運行形態

配線図から読み取れることをまとめます(図は2018年の「東京8号線(豊洲~住吉間)整備計画 調査報告書」より)。

豊洲側は有楽町方面との直通をできる構造になっています。ただ、運転計画を見てみると直通運転は一部の列車にとどまる見込みです。ピーク時の直通先は2本の引上線がある市ケ谷駅までが想定されています。

豊洲駅では方向別にホームが設定されます。乗り換えの際にホームを移動する必要はなく、同じホームの異なる番線に来る列車に乗り換えればよいということになります。つまり乗り換えの負担は小さいです。

2021年7月時点の豊洲駅は新線予定の部分にこのように床が増設されていて、巨大な島式ホーム1面2線のようになっています(新木場方を向いて、新線の線路が通る部分に立って撮影)。

一方の住吉側も半蔵門線の押上方面との直通ができる構造です。ですが、住吉側はピーク時の直通運転は計画されていないようです。乗り換えについては、住吉駅の構造がやや特殊で渡り線が作れないことから、電車によって発車・到着ホームが異なることになりそうです。

引上線が整備されれば方向別に設計できますが、そうでない場合は列車によって発車・到着番線が異なることになります。住吉側は若干の不便がありますが、それでもその付近での時間短縮の効果は大きいと感じます。

利便性

この新線によって得られる便益についても同じ報告書で分析されていました。便益とは、利用者のメリットを金銭的価値に置き換えたものです。以下のグラフは開業後の30年間における便益の内訳です。この便益が建設費用を超えれば建設には価値があると考えられ、試算では費用の3倍以上の便益があるとされています。

便益の大半は移動時間が短くなることによるメリットです。豊洲・東陽町・住吉エリアの人だけでなく、東武スカイツリーライン方面や東京都区部東部・千葉方面の利用者に大きなメリットがあるとされています。確かに、東武線から豊洲エリアに行くときに、これまでは永田町駅で半蔵門線から有楽町線に乗り換えていたものが住吉から豊洲に直結すれば明らかに便利になります。

東池袋エリアにはそれほどの利便がない

報告書では、私の住む東池袋エリア周辺にも時間短縮の便益があると推測されています。しかしながらそのメリットは限られます。

すでに書いたとおり、ピーク時の乗り入れは市ケ谷止まりです。それ以外の時間帯は一部が乗り入れるのかもしれませんが、それでも大きなメリットとはなりません。

有楽町線から住吉・東陽町・豊洲に行くには、

  • 住吉
    • 速度優先:市ケ谷駅で都営新宿線に乗り換え
    • 料金優先:永田町駅で半蔵門線に乗り換え(または飯田橋駅で東西線に乗り換え、九段下駅で半蔵門線に乗り換え)。5~10分余計にかかる
  • 東陽町
    • 速度優先:飯田橋駅で東西線に乗り換え
    • 料金優先:同上
  • 豊洲
    • すでに沿線

という経路です。新線ができ、直通電車が出れば乗り換える回数は減る利便があると思われますが、速度の面では大きな利点はありません。ただし、新線の経路で行けば乗り換えの徒歩の距離はかなり短縮されて、唯一の利点と言えそうです。

したがって、東池袋在住の管理人としては大きなメリットがあるわけではないと捉えています。1か月に1回ほど押上駅に訪ねることがあるので、完成したらその際に使ってみたいとは考えています。

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